ユダヤ教U A、人種理論 T〔アーリア人〕翔「ナチは"ユダヤ人はドイツ人の純潔を損ない社会を堕落させた"と宣伝したそうだね」。
山崎『ナチの政治家でありナチズムの理論家で、ニュルンベルク裁判で死刑になった アルフレート・ローゼンベルク(1893〜1946)は、著書「20世紀の神話」(1930)で、キリストは本来、ユダヤ人ではなく、アーリア人であると述べているよね。
【 アーリア人… アーリアン。サンスクリット語 アーリア(高貴な)からきた言葉。元来、中央アジアの遊牧民でイランに定住。さらにインドに侵入、インダス文明を滅ぼし、インドを支配してカースト制度を確立。
アーリア人が先住農耕民を征服する過程で、これを正当化するものとしてバラモン教やカースト制度が成立したとされる。
また一部が中央アジアからヨーロッパに移住し、現在のヨーロッパ語族〔ヨーロッパの人々が話すほとんど全ての言葉がこれに属している〕を話す人々の源流となった。ドイツ人はアーリア人の1つゲルマン民族。】
この本はナチズムの聖典と称され、日本を含む各国で翻訳されたそうだ。アーリア的伝統とユダヤ的伝統の闘争の歴史をそのまま世界史と位置づけ、アーリア人の優越性を述べ、イエス・キリストは本来アーリア人の聖な� �象徴であり、これをカトリック教会がユダヤ的なキリスト像にねじまげたとしているよ』。
翔「結局、ナチはイエスというユダヤ人を神とする一方、ホロコーストというユダヤ人大虐殺の愚行を犯したってことか…」。
翔「アーリア人って人種なの?」。
山崎「アーリア人(アーリアン)とは、本来 ヨーロッパ語族に属する言葉を話す人々をさすんだけど、言語と人種が混同され、アーリア人種についてヨーロッパでは論争がさかんに行われてきたというよね」。翔「これを政治的に利用したのがナチなんだね」。
山崎『ナチは、アーリアンの身体的特徴を長身、長頭、金髪などと限定し、ドイツを構成するゲルマン民族こそが、優秀なアーリアンであると主張した。そして、ユダヤ人をはじめとするセム族〔ヘブライ語やアラビア語などセム語系の言語を話す諸民族。アラビア人、エチオピア人、ユダヤ人など。なお セム語派は、アフロ・アジア語族の一派(アフロとはアフリカの意味)〕を排除したのさ。
ヒトラーの代表的な著作「わが闘争」では、歴史を人種間の生存闘争であり、強者が弱者を征服する過程であるという世界観(社会ダーウィニズム)を用いて、ユダヤ人排斥を正当化し、ユダヤ人を地上から抹殺することこそが、ドイツ民族の使命だと述べているよ』。
● 卍(万字)とハーケンクロイツインド諸宗教で、吉祥や美徳を象徴する印。仏教では、釈迦の胸や足裏にある瑞相(巻き毛の形)とされている。ヒンズー教では、左卍は和、右卍は力を意味するというように左と右とで違った意義付けをしている。
サンスクリット語では、スヴァスティカといい、中国には仏典を通して伝わり、鳩摩羅什(くまらじゅう)や玄奘はこれを「徳」で訳した。則天武后の693年に、吉祥萬徳の意味から、卍を萬と読むことが定められ、卍が漢字として使用されることになったという。万は、卍または卍から字の変化により誕生したという。
左卍と右卍があり、日本ではもっぱら左卍が用いられる。日本では、寺院の象徴として地図記号にも使用される。家紋にも用いられ、徳島藩主 蜂須賀氏の家紋が卍であったことから、阿波踊りでは、卍をあしらった浴衣がよく見られる。
ヒンドゥー教の最高神 ビシュヌの胸にある巻き毛が起源だとされるが実際にはもっと古く、古代のインド・ヨーロッパ語族の言葉を話す民族に、共通する宗教的シンボルであったようだ。かつては、東西問わず幸福のシンボルで、ヨーロッパでは十字架の1種となっている。
ナチスの「ハーケンクロイツ」〔鉤(かぎ)十字と訳す〕は、右鉤で、ナチ党の党旗に描かれ、1935〜45年にはドイツの国旗にも用いられた。ナチスは、卍をインド・ヨーロッパ語族の言語を話すアーリア人の象徴とした。
現在では、ほとんどのヨーロッパ諸国で右卍・左卍に関わらず、法律によって使用が禁止されている。特にドイツではハーケンクロイツの使用が完全に禁じられていて、学術的な目的以外で、公の場で使用すると逮捕される。
2007年には、卍� �禁止マークを重ねたり、卍がゴミ箱に突っ込まれているなどといったイラスト、反ナチ意識高揚のためのイラストでの使用が容認された。
翔「ヒトラー自身、ユダヤ人の血を引くという話もあるよね。手塚治虫の漫画『アドルフに告ぐ』ではそれがテーマとなっているけど…」。
山崎『ヒトラー自身そのことを気にして、顧問弁護士にあったハンス・フランク(後のポーランド総督)に調査を命じたようだ。ヒトラーの父、アロイス・ヒトラーは、私生児として生まれているんだけど、フランクの調査によると、
アロイス・ヒトラーは、母の奉公先であるフランケンベルガーという裕福なユダヤ人の家で、彼女が召使をしていたときに生まれたとされていたというよ。ヒトラーは自分の祖父がユダヤ人ではないかと懸念し、調� ��を中止させたそうだ。
ただ、ヒトラーの祖父がユダヤ人だった可能性はないとする戦後の調査報告もある。それによると、住民台帳に記載されているフランケンベルガー家は、地元バイエルン系のカトリック教徒であり、しかも当時は没落していたそうだ』。
翔「つまりは、ヒトラーの祖父が誰なのか、今も判っていないんだね」。
翔「ところで語族ってなに?」。山崎「語族とは、共通の祖語から派生したと考えられる諸言語のグループだね」。
翔「日本語は何語族に属するの?」。
山崎『日本語が何語族に属するかについては、色んな説があるよね。日本語族(日本語と琉球語を含む)の他、
【 琉球語… 奄美・沖縄・宮古、八重山各諸島で話されている諸方言の総称。琉球方言ともいう。原日本語から発展し、唯一日本語と同系の言語であることが証明されてはいるものの、口頭では互いに全く通じ合わないほどの違いがあり、日本語とは別の言語と見なす立場と、日本語内部の一方言と見なす立場とがある。】
ウラル・アルタイ語族(朝鮮語やモンゴル語と同じ)、マライ・ポリネシア語族(マライとはマレー半島のこと)、トラヴィタ語族(トラヴィタは南インドとスリランカの民族で、アーリア人とともにインドの2大主要民族。前2千年頃のアーリア人の南下まではインドの主たる住民であったという)などの説ある。また、ウラル・アルタイとマライ・ポリネシアが重なって成立したとか、ペルシア語や英語が起源だという説もあるよ うだね』。
翔「旧約聖書の創世記には、バベルの塔の話があるよね」。
山崎『ノアの洪水後、人類(ノアの子孫)は名声を高めるため、シナル〔メソポタミア(現在のイラク)の中心都市のバビロニアとされる〕に、レンガを用いて町をつくり、さらに天に達するほどの高い塔を建てようとした。
神は、これを人間の自己神化であり、驕りであると怒り、それまで1つであった言葉を、混乱させ〔バウル。ここからバベルの塔の名がきている〕、互いに通じないようにし、工事を失敗に終わらせた。神はそこから人々を全ての地域に散らせた。このためそれぞれの民族が、違う言葉を使うようになったという話だね』。
B、人種理論 U〔ノアの息子〕山崎「それから19世紀後半のヨーロッパ人類学では、ノアの3人の息子のセム、ハム、ヤペテから全人種が誕生したとされていたそうだ。セムからは、ユダヤ人・アラブ人・アジア人、ハムからは黒人(ネグロイド)、ヤテベからは白人(コーカソイド)が誕生したとされていたというよ」。
【 コーカソイド… ヨーロッパ、インド、西アジア、アラブ、北アフリカ、南北アメリカなどに分布。ネグロイド… 主にアフリカの民族の多くに分布。
モンゴロイド… 「モンゴル人のようなもの」という意。日本人、朝鮮人、韓国人を含むアジア・モンゴロイドの他、インドネシア・マレー人、ポリネシア人、南北アメリカに広く分布する人たち(先住民)が含まれる。
なお、アングロアメリカで混血が進まなかったのに対しラテンアメリカで混血が進んだのは、当初スペインからの移民は、9割が男性で、圧倒的に女性が不足していたことから、スペイン政府が、現地人との結婚を奨励したことによるという。
このため、コスタリカ、ウルグアイ、アルゼンチン、チリのように原住民が少なかった地域では、現在でも白人が多数派。逆に、グアテマラ、エクアドル、ペルー、ボリビアのように、原住民がたくさんいた地域でも、混血はあまり進まず、現在でも原住民が多数派を形成する。
ま� �、カリブ海諸国やブラジル北部などプランテーション農業がさかんな地域では、アフリカなどから大量の移民や奴隷などを受け入れた。】
翔「ノアって旧約聖書の創世記のノアの方舟(はこぶね)に登場する人でしょ」。山崎「ノアの方舟の話は、創世記の6〜9章にみられるよね」。
山崎『ノアの方舟とは以下のような話だね。地上に増えた人々が、神を敬わず、悪を行っているのを見て、神は洪水で滅ぼすことを考える。そこで正しい人であるノアに告げ、箱舟の建設を命じた。ノアと8人の家族は箱舟をつくり、またその間、大洪水が来ることを人々に知らせた。しかし、ノアの話に耳を傾ける者はいなかった。
ノアは箱舟を完成させると、家族とその妻子、全ての種類の動物のつがいを乗せた。洪水は40日続き、地� ��に生きていたものを滅ぼし尽くした。水は150日間、勢いを失わなかった。その後、箱舟はアララト山の上にたどり着いた。
【 アララト山… トルコ東部。イラン・アルメニアとの国境近くにある円錐形火山。標高5137m。古くからアルメニア人が多く居住してきた地域の中心にあり、アルメニア人は世界の母と仰ぐ。なお第一次大戦中、キリスト教徒であるアルメニア人は、オスマン帝国(イスラム教国)により、強制移住させられトルコ領内からはほとんどいなくなった。このとき、相当の数のアルメニア人が虐殺されているが、トルコ政府は虐殺の事実を否認していて、論争となっている。】
40日後、ノアはカラスを放ったが、とまるところがなく帰ってきた。さらに鳩を放したが、同じように戻ってきた。7日後、再び鳩を放すと、オリーブの葉をくわえて船に戻ってきた。
さらに7日たって鳩を放すと、鳩は戻ってこなかった。ノアは水が引いたことを知り 、家族と動物たちといっしょに箱舟を出た。神はノアとその息子たちを祝福し、今後、生き物を絶滅させてしまうような大洪水を起こさないと約束し、神はその契約の証として、空に虹をかけた。というものだね』。
翔「キリスト教なんかでは、ノアが人類の祖なの?」。山崎「アダムとイブに続く第2の人類の祖、人類再生の祖だね。ノアはアダムから10代目にあたり、アブラハム(ユダヤとアラブ民族の祖)はノアから10代目にあたる。ノアは洪水のあと350年生きて950歳で死んでいるから、方舟の話は600歳のときのこということになるね」。
翔「似たような話があったよね。ウルトラマンの怪獣と同じ名前のゴモラとかいう街の話で?」。
山崎『やはり旧約聖書の「創世記」にある ソドムとゴモラの話だね。アブラハムの甥のロトの一家は、ソドムという街に住み着くが、この街はゴモラとともに、住民の堕落のため、神より下された硫黄と火によって滅んでいる。
≪神の使い(天使)から伝えられた神の言葉に従い、神の裁きが下る前に街から逃げたロトと娘たちは救われた。しかしロトの妻は、欲望の街ソドムへの未練があったため、神の言葉を破って後ろをふり向いて、焼かれていく町を見てしまう。このため、塩の柱になってしまった。≫という話だ。
この話からソドムとゴモラは、悪徳・退廃の町、神の裁きを受ける町の代名詞になっているよ。また、男色(同性愛・肛門性交)や獣姦を意味する英語のソドミーは、ソドムに由来するそうだ。
ソドムとゴモラは地震により、現在の死海南端の湖底に 沈んだなんて説もあるよね』。
山崎『さて話を戻そう。創世記の第9章には以下のようにある。≪ノアは農夫となり、ぶどう畑をつくり始めたが 彼はぶどう酒を飲んで酔い、天幕の中で裸になっていた。ハムは父の裸を見て、外にいるふたりの兄弟に告げた。 セムとヤペテは着物を取って肩にかけ、うしろ向きに歩み寄り、父の裸をおおい、顔をそむけて父の裸を見なかった。
やがてノアは酔いがさめて、ハムが彼の裸を覗き見したのを知って「カナン(ハムの子)はのろわれよ。彼はしもべのしもべとなって、その兄弟たちに仕える」と述べた。≫ このことから、先に述べた人類学が成立し、白人の黒人支配が正当化されていたんだよ』。
翔『先進国は、こうしたジェノサイド〔民族浄化。殺戮ばかりでなく、強制的な同化政策による文化抹消、集団に対する断種手術の強要、また隔離政策など、特定の集団の抹消行為をいう〕の倫理観の誤りを認めて発展してきたということだね。
アメリカ映画の西部劇に登場するインディアンは、敵の頭の皮を剥ぐ野蛮な人種で、悪であると� �かれてきた。でも、近年、彼らの社会に存在する自然との共生や家族愛、助け合いの精神などが高く評価されてきているよね。調べてゆくと、未開の社会であっても、すぐれた秩序によって維持され、高い精神文化が存在していることも判ってきたというし』。
山崎「つまり科学的に未開であることが野蛮であり悪であるとするのは時代遅れの考えで、科学先進国がそのまま人権先進国ではないということだね」。
翔『アメリカ先住民をインディアン(インド人の意)と呼んだのは、新大陸を発見したコロンブスが、インドに到着したものだと信じて、彼らをインディオと呼んだことに始まることは有名だね。でも先住民にとってこんな失礼なことはない。
だから現在では、インディアンという言葉を避けて、ネーティブアメ� ��カン(ネーティブとはその土地で生まれた意)と呼ぶようになったよね。
「"コロンブスが新大陸を発見した"というのは間違えで、そこにはもともと原住民が存在したのだから"コロンブスが原住民と出会った"というのが正しい」と指摘されるようにもなってきているしね』。
山崎『同様に、アラスカ・カナダ北部・グリーンランド南岸、シベリア北東岸などに住む民族をエスキモーと呼んできた。エスキモーは、北米のアルゴンキン系インディアン(マクロ・アルゴンキン語族に属する言語を話す北アメリカ原住民の諸族)のアブナキ語やオジブア語で"生肉を食う人"という意味のエスキマンツィクに由来する言葉であるという。
最近では、彼らが、カナダではイヌイット、北アラスカではイヌピアック、西南アラスカ� ��はユピックなどと自称していることから、公的にもイヌイットと呼ぶようになってきているよね。イヌイット、イヌピアック、ユピックは、人間の意味だというよ』。
翔「よく"事実と真実は違う"・"正しい歴史観をもちなさい"と言われるけど…」。山崎「事実として残されている歴史の多くは、戦勝者側や文明世界からの歴史だ。真実は、西欧では歴史の英雄であっても植民地にされた国の人たちにとっては極悪の存在という場合もあるということだね」。
翔『すると、真実は、当時を生きた人々の心の中にだけに存在しているのだから「真実を知る」「正しい歴史観をもつ」とは、それを読み取ることと言えそうだね』。
C、シオニズム山崎『19世紀後半になると、ユダヤ人の間に「自分たちの国を建てよう」という意識が湧き上がる。彼らが建国に求めたのが、当時、オスマン帝国(イスラム教スンニ派の国家)の領土であった故郷のパレスチナだ。
その地の シオン山が、希望の象徴とされ、シオン山に戻る運動「シオニズム」が展開され、ユダヤ人を東ヨーロッパからパレスチナへと移住させた。
【 シオン山… エルサレムの南東にある丘。ダビデが祭壇を築いて以来、聖なる山となった。ダビデの墓も存在する。エルサレムの象徴で、シオンはエルサレムの雅名にもなっている】
シオニズムは「シオニズムの父」と崇められ「イスラエル国家建設の最大の功労者」と言われるオーストリアのユダヤ系ジャーナリスト テオドール・ヘルツル(1860〜1904)によって開始されたというよ。
「ユダヤ人の問題は同化ではなく、独自の国家を建設することでのみ解決される」と考えたヘルツルは、1896年に「ユダヤ人国家」を出版。97年には、彼の努力により、スイスのバーゼルで、第1回シオニスト会議が開催されている。この会議で「パレスチナに公法で認められる国家を建設する」ことが決議されたという。
ヘルツルは、世俗の人なので、それ以前の論者とは違い、ユダヤ人が安全に生活できれば、なにもパレスチナにこだわることはないと考えていたようだ。むしろ、アフリカのウガンダや、地中海のキプロス島を考えていたというよ。
ウガンダの計画は、運動の過程で、ロシアや東欧のシオニストに拒否されている。また� �ルツルは、ドイツ皇帝の中東支配の野心を利用しようと、皇帝に謁見し、ドイツの中東支配がいかに有益であるかを語るなどしたそうだ。
こうしたヘルツルの運動への賛同者は、彼の生前、また第一次大戦(1914〜18)以前は少数しかいなく「夢物語だ」とあざけりを受けたり、彼の世俗的な考えが「神への冒涜である」と批判されたり、「シオニズムは、反ユダヤ主義を刺激するものだ」と非難されたというよ。
ところが、1917年の「バルフォア宣言」が出され、また第一次大戦後に誕生したナチス政府のユダヤ人への虐殺が進むと、シオニズムは正当なものとして人々に受け入れられ、多くのユダヤ人をパレスチナに移住させていったというよね』。